ここ最近、新聞やインターネットで注目の治療法として話題になっているため、ご存知の方も多いかと思いますが、重度の四肢潰瘍をハエの幼虫(ウジ)が治す『マゴットセラピー』についてお話します。
糖尿病足壊疽などの治癒しにくい四肢潰瘍に対し、ヒロズキンバエの幼虫であるウジ(=英語でMaggot:マゴット)を用いて治癒を促す治療法のことです。マゴットを用いた医療は古代から行われてきたものでありますが、その記録は殆ど書き残されていません。
欧米では、感染した傷がウジによって有益な影響を受けることが従軍外科医によって観察され書き留められています。傷の回復を助けるために意図的にウジを用いるようになったのは、20世紀初頭になってからですが、抗生物質の発見や進歩した外科技術により、次第に下火になっていきました。
しかし、最近になって、糖尿病足壊疽患者の増加や薬物耐性の感染の増加などにより、再びマゴットセラピーが脚光を浴びるようになってきました。
マゴットセラピーはいかにして四肢潰瘍を治すのでしょうか?現在のところ詳細なメカニズムはわかっていませんが、3つの機序が考えられています。
1つ目は、ウジが壊死組織をきれいに食い尽くしてくれるということです。ウジの好物はあくまで壊死した組織で、正常な組織を食べてしまうことは絶対にありません。
外科的に壊死組織を除去するよりもマイルドで、出血したりすることもほとんどありません。
2つ目は、ウジが壊死した組織以外に感染したバイキンも食べてくれるという事です。苦手なバイキンもありますが、ほとんどのバイキンを食べてくれます。また、バイキンを殺すたんぱく質を分泌しダブルの効果で抗生物質の効きにくいメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)にも負けません。
3つ目は、ウジが創部の上を動き回ることで刺激され、新しい組織形成が促されるということです。壊死組織が取り除かれるだけでは傷は治らず、新しい組織ができてくれないといけません。ウジによる機械的な刺激が創傷治癒を促します。
3つのメカニズムを検討してみると、どういった症例がマゴットセラピーの適応になってくるかがわかります。すなわち、バイキンが傷の治りを悪くしていて、しかも従来の抗生物質や外科的処置によっても改善が見られない場合が適応となります。
四肢の潰瘍は、血行不良でも生じますが、血行をよくする作用はマゴットセラピーにはありませんので、血行障害による潰瘍には適応がありません。
したがって、感染性壊死と血行障害による壊死の識別が必要となってきます。おおよその目安としては、痛みを伴う潰瘍は血行障害によるもの、痛みを伴わない潰瘍は感染性のものと考えてよいでしょう。
では、マゴットセラピーの短所はどんなものがあるでしょうか?まず、ウジが創部を動き回るので、モゾモゾした違和感がある場合があります。しかし、痛みは全くありません。
他には、ウジが逃げ出したり、ウジの分泌物のニオイ(独特のニオイ)が気になったり、潰瘍が改善せず炎症反応が全身に及ぶことがあったり、といった短所がありますが、多くの場合は有用性の方が勝り、高い治癒率を望めます。
ある報告によりますと、マゴットセラピーの成功率は80~90%と言われています。
2002年の厚生労働省の糖尿病実態調査では、糖尿病患者740万人のうち1.6%が足壊疽を起こしており、年間3,500人以上が足切断に至っています。当院でも多くの糖尿病患者さんの診療をしていますが、足壊疽から足切断に至った方も数多くいらっしゃいます。
なんとか足切断を避けようと当院においてもマゴットセラピーをはじめました。現在日本には30施設ほどしかマゴットセラピーを行っているところはなく、京都府内で行っている施設はないようです。
今後当院は、京都におけるマゴットセラピーの先駆的立場として治療を行っていきたいと考えています。詳しくは外来診療時にお尋ねください。
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外科 清水医師 |
※ お電話及びメール等でマゴットセラピーの適応等についてはお答えできません。必ず外来受診してください。外来受診を希望される方は当院、地域連携室までご連絡ください。また、マゴットセラピーは保険外診療となります。
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